百人一首 九十番歌

【原文】

見せばやな 雄島のあまの 袖だにも ぬれにぞぬれし 色はかはらず

殷富門院大輔

【現代かなづかい】

みせばやな おじまのあまの そでだにも ぬれにぞぬれし いろはかわらず

百人一首 八十九番歌

【原文】

玉の緒よ 絶えなば絶えね ながらへば 忍ぶることの 弱りもぞする

式子内親王

【現代かなづかい】

たまのおよ たえなばたえね ながらえば しのぶることの よわりもぞする

【現代語訳】

わが命よ、絶えてしまうなら、いっそのこと絶えてしまえ。このまま生き長らえていると、ますます恋心が強くなり、心に秘めている力が弱まって、人目につくようにでもなったら困るから。

【文法・修辞法】

●玉の緒よ 「玉の緒」は命のこと。間投助詞「よ」で呼びかけ。初句切れ。

●絶えなば絶えね 「絶え」+「な」+「ば」 下二段動詞「絶ゆ」の連用形+完了の助動詞「ぬ」の未然形+仮定条件の接続助詞「ば」

「絶え」+「ね」 下二段動詞「絶ゆ」の連用形+完了の助動詞「ぬ」の命令形。二句切れ。

●もぞ そうなっては困る、という気持ちを表す。「もこそ」も同じ。

●係り結び 係助詞「ぞ」+サ変動詞「す」の連体形「する」

●縁語

糸を示す「緒」と「絶ゆ」「ながらふ」「弱る」は縁語。

百人一首 八十八番歌

【原文】

難波江の 葦のかりねの ひとよゆゑ みをつくしてや 恋ひわたるべき

皇嘉門院別当

【現代かなづかい】

なにわえの あしのかりねの ひとよゆえ みをつくしてや こいわたるべき

百人一首 八十五番歌

【原文】

夜もすがら 物思ふころは 明けやらで 閨のひまさへ つれなかりけり

俊恵法師

【現代かなづかい】

よもすがら ものおもうころは あけやらで ねやのひまさえ つれなかりけり

百人一首 八十四番歌

【原文】

ながらへば またこのごろや しのばれむ 憂しと見し世ぞ 今は恋しき

藤原清輔朝臣

【現代かなづかい】

ながらえば またころのごろや しのばれん うしとみしよぞ いまはこいしき

百人一首 八十三番歌

【原文】

世の中よ 道こそなけれ 思ひ入る 山の奥にも 鹿ぞ鳴くなる

皇太后宮大夫俊成

【現代かなづかい】

よのなかよ みちこそなけれ おもいいる やまのおくにも しかぞなくなる

百人一首 八十一番歌

【原文】

ほととぎす 鳴きつる方を ながむれば ただ有り明けの 月ぞ残れる

後徳大寺左大臣

【現代かなづかい】

ほととぎす なきつるかたを ながむれば ただありあけの つきぞのこれる