出版年が1995年なので、前半が阪神・淡路大震災(兵庫県南部地震)、後半が活断層に関する地震学の知見、各地域の活断層の状況を取り上げている。本書は主に内陸の直下型地震を分析しているので、海溝型である南海トラフ地震は別の本を読んだほうがいい。
阪神・淡路大震災で動いたのは淡路島北部にある野島断層。マグニチュード7.2、最大震度7の揺れを記録した。須磨断層、芦屋断層も動いた痕跡がある。断層が動く方向は(少なくとも数万年間は)一定方向に決まっていて、神戸市では断層の北側は東あるいは北東向きに動き、南側は西または南西向きに動いた。
震源地の淡路島では畑に地割れが発生して断層のズレがはっきり出ている。
阪神大震災の脅威、活断層が水平に210cm上下に140cmずれた 30年後の野島断層 写真でたどる30年 阪神大震災の記憶③ 2025/1/4 07:00
https://www.sankei.com/article/20250104-HXGKVMDCWBPURGZVVBUUQJWYZU
現代の都市は人工物に覆われているので、断層の動いた痕跡を探すのは簡単ではないが、灯籠の倒れた方向などでも推測できる。地震発生の瞬間がコンビニの防犯カメラにも記録されている。当時は防犯カメラの設置が始まったばかりだったので、大地震発生の瞬間を捉えたほぼ最古の映像ということになる。
阪神大震災の分析は第1章に書いてあるので読んでほしい。
それ以外の断層の分析一般については第2~4章にあり、断層学の知見や分析ツールを知ることができる。第5章以下は各地域の断層の様子である。
よくいわれる活断層の周期はどのようにして推測しているかというと、2回以上断層が動かないとそもそも評価も推測もできず、ざっくり言うと2点間の距離を結んでグラフを作成するのと同様の仕組みで推測している。
歴史上の文字記録などから動いた時期を活用する方法と、実地でトレンチという溝を掘って地層を調査する方法の2種類ある。
文字記録から推測する方法をとると、日本に漢字という文字が伝来したのは1500年前、大和朝廷が古事記や日本書紀などきちんとした記録を取り始めたのは1300年前ほどだから、最大限頑張っても周期1500年以上の断層についてはあまり確実な情報がないことになる。ちなみに狭義の歴史は文字記録のとられた時代のことであり、文字記録がない時代のことは無文字時代または先史時代という。
一方、トレンチの実地調査は数十万年、数百万年単位での分析が可能だ。
内陸地震で(東日本大地震は海溝型)最大の地震は1891(明治24)年に発生した濃尾地震はM8.0という途方もない巨大地震であり、動いた断層の大きさは水平方向で8メートル(世界最大は12メートル)、垂直方向でも6メートルという凄まじさ。地割れの発生した根尾谷断層は断層丸ごと特別天然記念物として記念館の中に保存してある。必見の大きさである。
根尾谷地震断層観察館 – 本巣市
https://www.city.motosu.lg.jp/0000001399.html
結構山奥の方にあるのでぜひ見に行くべきだなどと気軽に言えないが、どうせ行くなら桜の季節に薄墨桜を見に行くついでに帰りにでも寄るのが一石二鳥だろう。ただし根尾谷断層記念館のある岐阜県本巣市の根尾水鳥(みどり)は記念館以外に何もなくて樽見鉄道の待ち時間30分くらいは覚悟しなければならないため、なるべく午前中に大垣駅を出発して遅くとも午後3時までには着くようにしておくのがベター。
樽見鉄道

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断層の分布に関しては圧倒的に東海北陸にかけての中部地方、近畿地方、九州地方が多い。とくに中部地方はフォッサマグナの糸魚川静岡構造線の近くにもたくさんの断層があり、数が多いだけでなく、エネルギーも大きい。
中部地方の断層の特徴としては、日本の本州は中央構造線のようにおおむね東西に断層が走っていることが多いが、伊豆半島から北北西に向けて押し上げるフィリピン海プレートの影響により、断層の向きがねじまげられ、狭い間隔に多数の断層が分布している。フィリピン海プレートの運動により、富士山や日本の背骨と呼ばれる飛騨や木曽の日本アルプスの標高が高くなっている。日本で内陸地震のリスクが極めて高い地域といえよう。
近畿地方はあまり地震の多いイメージはないが、実は断層が多く、過去にも地震の記録は多い。小牧長久手の戦いの最中に起きた慶長伏見地震(1596年)で豊臣秀吉の居城であった伏見城が崩落し、徳川家康との講和のきっかけになった。阪神大震災の起こる前は「関西は地震が少ない」のが定説とされてきたらしいが、たまたま100年間地震が起きない静穏期だっただけで、断層の分布からすると頻発地帯であることは否定できない。京都北部の花折断層は地形的に観察しやすい断層だろう。
九州地方は阿蘇山など火山との連動が懸念される。国東半島の付け根、別府万年山断層帯、水縄断層、日奈久断層が切れ込みのように九州を通過している。過去の地震で有名なものは「島原大変肥後迷惑」といわれる1792(寛政4)年のM6.4の雲仙岳の活動に伴う地震で、島原背後の眉山が崩れて、有明海に流れ込んだという。
以上はすべて内陸地震の話であり、海溝型の東日本大震災や南海トラフ地震は除外している。断層の動くタイムスパンの長さを考えると、「今後30年以内に◯◯地震が起きる確率」という時の「30年」などは誤差に過ぎずあまり意味のない参考値でしかないと感じる。自分の生きているうちに発生する確率が半々程度にとらえておけばいいのではないか。過去を分析することで非常に多くの知見を得られるが、かといって未来を正確に予測することなど誰にもできない。できないが、ある程度の被害予測は可能なので防災に活かすことは可能だろう。被害ゼロにはできなくとも、被害を縮小させる減災、事後の復旧対策など事前に備えておくべきことは多い。昔の岩波新書の赤本なので全くキャッチーではない真面目な本だがそれゆえに万古不易で学ぶべきことは多い。













