【原文・歴史的仮名遣い】
秋の田の かりほの庵(いほ)の 苫(とま)をあらみ わが衣手は 露にぬれつつ
天智天皇
【ひらがな表記・現代仮名遣い】
あきのたの かりおのいおの とまをあらみ わがころもでは つゆにぬれつつ
【現代語訳】
実りの秋の取り入れに当たって、刈り取った稲穂を荒らされないように番をする、田のほとりに作った仮小屋に泊まっていると、屋根をふいてある苫の目が荒いので、私の袖は、すき間からもれる夜露に、しきりにぬれることだよ。
【文法・修辞】
●「かりほ」は「刈穂」と「仮庵」の掛詞。「仮庵(かりいほ)」の「い」を略して「かりほ」。「かりほの庵」は「いほ」で語調を整える重ね言葉。仮庵は田を荒らす害獣を防ぐために仮に作った小屋。
●苫をあらみ「~を+形容詞語幹+接尾辞み」は、原因・理由を表す。「~が~なので」と訳す。苫は菅(すげ)や萱(かや)の長い草で編んで屋根をふいたもの。苫で編んだ屋根のすき間が荒いので、夜露に濡れるということ。
●衣手=袖のこと。袖が濡れる=泣き悲しむことを連想させる表現。
●つつ止め。「つつ」は動作の反復・継続を表す接続助詞。「つつ」で止めるのを「つつ止め」といい、余韻・余情を表す。
【作者・背景】
●天智天皇(628~671)
第三十八代天皇。舒明天皇の第一皇子。645年、皇太子(中大兄皇子)の時、中臣鎌足と協力して、蘇我入鹿を滅ぼし、大化の改新を行った。即位後、近江の大津宮に遷都した。これを縁として近江神宮では毎年かるた選手権大会が開かれている。
●『後撰集』秋中・302に収録。
『万葉集』巻十に「秋田刈る仮庵を作りわが居れば衣手寒く露ぞおきける」と詠み人知らずの歌があり、元は無名の農民の労働歌であったものが、平安・鎌倉時代の好みにあった言い回しに変えられ、さらに天智天皇の作と誤り伝えられた説が有力である。
【確認問題】
次の( )に入る選択肢はどれか。
「かりほ」は「刈穂」と「仮庵」の( )。
1.枕詞 2.掛詞 3.序詞